「―言葉を持たない指導者たち―」 日大アメリカンフットボール部悪質タックル事件について
2018/5/22「―言葉を持たない指導者たち―」
日大アメリカンフットボール部悪質タックル事件について
アメリカンフットボールの名門、日大フェニックスの選手が悪質なタックルで関西学院の選手を負傷させた事件は、近年まれにみる悪質なスポーツ事故として大きく報道されています。
また、この事件にはこれまで当会が取り組んできた現在の日本のスポーツ、特に学生スポーツの様々な問題が内包されており、この事件によって現在の日本のスポーツ界の悪しき部分が噴出したように感じます。
監督の意識と責任
今回の事件の様々な報道に触れ何よりもまず感じたことは、内田監督のスポーツ事故への認識の低さと勝利至上主義への尋常ならざる拘り、そして自身の指導力の誤った捉え方です。
現在の日本のスポーツ界においては、競技者は絶対権力者である監督に対して異議を唱えることが極めて困難です。指導者は、何よりもまずこのことを認識すべきです。
自身の指導は選手に対しては絶対であること、であるからこそ、スポーツマンシップにのっとった教育的な指導が必要なのです。社会常識から逸脱した、青少年の教育的見地から逸脱した、不法行為ともいうべき指導は、いかなるスポーツ現場においても選手に強要されるべきではありません。
「勝つためにはあれぐらいのことはしないと」という内田監督のコメント、あの極めて危険なタックルを「あれぐらいのこと」と言ってしまう内田監督の意識には、スポーツ安全への配慮を全く感じることができず、一般社会との常識に大きなズレを感じます。
勝利のためには何をしてもよい、という認識の指導者は速やかにスポーツ現場から退場をされるべきであると考えます。
また、今回の事件は、試合中の映像が出たことで、たまたま一般の方にもその構図が解りやすく伝わった事件ではありましたが、このような事は、今回の事件だけでなく過去に報道された様々なスポーツ事件においてもスポーツ現場におけるパワーハラスメントの問題として幾度も指摘をされいます。しかしながら、いまだにこのような事件が起こり、また改善がされないままのスポーツ現場が多々あることを深く危惧します。
脳損傷の危険性とスポーツ安全
今回の事件における報道映像を見た時、まず、関西学院大学の選手の頭や首へのダメージを心配しました。あのような無防備な状態で背後から強い力でタックルをかけられた時に起こり得る危険を、指導者も選手も強く自覚すべきです。
当会では、スポーツでの脳損傷の危険性について繰り返し警鐘を鳴らし、指導者は脳へのダメージとその初期段階である「脳震盪」の知識を持つべきであることを訴えてきました。
スポーツをする人間は指導者、選手関係なくスポーツ安全のための医学的知識を持つべきです。
映像を見る限り、現時点で後遺症がないと診断されていることが幸いであると思える危険な行為です。同様の脳、頚椎、脊髄への衝撃で多くの不幸な事故が過去において多数発生していること考えれば、一歩間違えば、大きな障害事件になっていたことは想像に難くありません。あの極めて危険な行為を「あれぐらいのこと」と内田監督が言ったことに、スポーツ安全の知識の欠如、安全意識の低さを感じ、憤りすら感じます。
また、あのような危険な行為が故意によって行われたのであれば、その原因を究明し、加害者はしかるべき責任を負うべきであると考えます。
言葉を持たない指導者たち
スポーツにおいて勝利することは、重要なことです。
しかし、忘れてはならないのは安全もまたスポーツにとって、極めて重要であるということです。
勝利至上主義にとらわれた指導者は、勝利についてのみ語り、スポーツの本質的な目的やその安全について語る言葉を持ちません。
スポーツの持つ本来の教育的見地から掛け離れ、安全への配慮を軽視した、言葉を持たない指導者に、競技者が傷つけられていくという日本のスポーツ界の構図はそろそろ終わりにしなければなりません。
最後に、怪我をなさった関西学院大学の学生さんの回復をお祈りし、それと共にタックルをした日大の選手の心の傷が癒えることを願っております。
青少年スポーツ安全推進協議会:澤田佳子